著者
郡 史郎
出版者
大阪外国語大学
雑誌
Aula Nuova : イタリアの言語と文化
巻号頁・発行日
vol.5, pp.55-93, 2006-03-30

長短の対立がなく母音間では常に長いとされる子音〓〓〓〓について,その長さの実態を地域差の有無を含めて検討した。話者は,標準的発音と考えられている中部のトスカーナ州の話者1名,中南部のラッツイオ州の話者3名,そして従来これらの子音を短く言うとされている北部のベネト州の話者3名からなる。検討の結果,これらの子音は母音間では長いという特徴は,北部の1名を除く全員に見られた(トスカーナ話者以外は〓を除いて検討)。したがって,この特徴は北部でも一定の傾向として存在しているわけである。これらの子音の直前にある母音がアクセント母音である場合,それは非アクセント母音の倍程度の長さがある。聴覚的には短母音とみなされてきたが,学習者は相当長いつもりで発音すべきであろう。なお,これらの子音を一貫して短めに言う話者も含め,ここでの北部の話者は一般子音の長短は区別しており([n]について検討),中部や中南部に比べて長短の差が小さいということもなさそうである。アクセント音節への子音の所属関係,および語内のアクセント位置という音韻環境が子音の長さに影響を及ぼすかどうかについての検討も行ったところ,次末アクセントの語ではどの子音もアクセント音節に属さない場合は相対的に短いのに対し,長短の対立がない子音や一般子音の長いものは,子音の後半部がアクセント音節の末尾子音になる場合に相村的に長い傾向があることがわかった。次末アクセント以外の語ではこの傾向はあまり顕著ではないが,そこに地域差と思われるものはなかった。周知のようにアクセントは母音の長さに顕著な影響を及ぼすが,影響は実は子音にもあるわけであり,したがってアクセントは母音にあるのではなく音節にあると考えるべきことが確認された。
著者
郡 史郎
出版者
大阪外国語大学
雑誌
Aula Nuova : イタリアの言語と文化
巻号頁・発行日
vol.4, pp.29-43, 2004-06-10

正書法上は同じaiでも,2母音が別音節に分かれ2音節目にアクセントがあるaiに比べて,全体が1音節に属する下降二重母音でアクセントがあるaiは,二重母音であるがゆえにかなり短く,アクセントがない二重母音に近い長さで発音されているのではないかという聴覚印象を,7名の話者の発音の音響分析を通じて検討した。その結果,(1)アクセントがある下降二重母音aiは,アクセントがないaiの平均1.5倍強の長さを持っていること,(2)2音節目にアクセントがあるaiに比べて,下降二重母音でアクセントがあるaiを1割から2割程度短く言う話者が7名中5名いること,(3)しかし二重母音であるがゆえに短縮させていると思われるのは7名中3名に過ぎないことがわかった。この点において話者がVeneto州かLazio州かという出身地域による偏りは特になさそうである。したがって,調音点の移動方向は同じでも,1音節に属する二重母音かそれとも2音節に分かれる母音連続かという条件は,アクセント母音の長さを左右する要因であるとは言えるが,さほど強力なものではないと考えられる。また,母音連続aoが下降二重母音に準ずる性格を持ち,2音節目にアクセントがあるaoに比べて短かめに発音されるのではないかという聴覚印象もあったが,これをやはり7名の発音の分析を通じて検討したところ,aoをaoより短く言う話者はいるが,それはaoが二重母音に準ずる性格を持つためとは言えず,単に最後から3音節目にあるという位置のための短縮に過ぎないようである。