- 著者
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郡 史郎
- 出版者
- 大阪外国語大学
- 雑誌
- Aula Nuova : イタリアの言語と文化
- 巻号頁・発行日
- vol.4, pp.29-43, 2004-06-10
正書法上は同じaiでも,2母音が別音節に分かれ2音節目にアクセントがあるaiに比べて,全体が1音節に属する下降二重母音でアクセントがあるaiは,二重母音であるがゆえにかなり短く,アクセントがない二重母音に近い長さで発音されているのではないかという聴覚印象を,7名の話者の発音の音響分析を通じて検討した。その結果,(1)アクセントがある下降二重母音aiは,アクセントがないaiの平均1.5倍強の長さを持っていること,(2)2音節目にアクセントがあるaiに比べて,下降二重母音でアクセントがあるaiを1割から2割程度短く言う話者が7名中5名いること,(3)しかし二重母音であるがゆえに短縮させていると思われるのは7名中3名に過ぎないことがわかった。この点において話者がVeneto州かLazio州かという出身地域による偏りは特になさそうである。したがって,調音点の移動方向は同じでも,1音節に属する二重母音かそれとも2音節に分かれる母音連続かという条件は,アクセント母音の長さを左右する要因であるとは言えるが,さほど強力なものではないと考えられる。また,母音連続aoが下降二重母音に準ずる性格を持ち,2音節目にアクセントがあるaoに比べて短かめに発音されるのではないかという聴覚印象もあったが,これをやはり7名の発音の分析を通じて検討したところ,aoをaoより短く言う話者はいるが,それはaoが二重母音に準ずる性格を持つためとは言えず,単に最後から3音節目にあるという位置のための短縮に過ぎないようである。